SAlchemiastory’s diary

WoFメンバーメインにした創作小説です^^

Wheel of Fortuneー古代都市と神罰者たちー第1章③

祭壇に奉られている女神像に祈りを捧げ終わると、茶髪の髪の少女は窓際に立ち、ゆっくり日が落ちていくのを眺めた。彼女の名前はミト。街の中核に建つ神殿の巫女であり、祖母である神官マーサのもとで修行をしている。急な任務のため昼間に神殿を抜けてからまだ帰らない、もう一人の家族の帰りを待っていた。

  もう一人の家族、トモチは彼女たちとは血の繋がりがない。神殿の前で置き去りにされた赤ん坊をマーサが見つけ、トモチと名付けられ神殿で育てられてきた。幼い頃からミトと姉妹同然に一緒に過ごしており、遊ぶ時もマーサから説教をもらう時も、いつも一緒であった。

 「もう少し落ち着いたらどうだ?」

 声のする方を振り向くと、水汲みから戻ってきたマーサが部屋に入ってきたところだった。

 「うん、そうね。トモ姉の帰りが遅いから心配になったのよ。」

 「ああ。また何かあったのかね。」

 「ここのところずっとこんな感じだよ。もしかして今日もまた、かと思うと。」

 「あまり考えたくないことだが、遅かれ早かれいつか人は死ぬ。私たちにできることは、彼らのために祈りを捧げ、神のもとに送り出すことだ。」

 「そうね、」

 そう言いながらミトは立ち上がり部屋から出た。

 閉門の時刻に近付いており、神殿の正門を閉め鍵をかけようとした時であった。

 「御免」

 男の声が聞こえた。閉じかけた正門を開けると、街の通達人がそこに立っていた。

 「急なことで申し訳ないのだが、領地内で死者が出たので」

 「また、ですか」

ミトの表情は暗くなる。使者との数分のやり取りの後、これからの準備のためにマーサを呼びに奥へ入って行った。

 

  現地で負傷人を救助し、キラとゴンは応援に駆けつけてきたもう一人の隊員、クラースとともに、街へ向かった。負傷人は更なる治療が必要と判断し、街医者の魔術師の元へ護送され,そして死者たちは遺族の待つ神へ運ばれた。

  一方、現地に残ったソルディたちは、消火作業を終わらせ、目撃者から更なる事情を聴取し、続いて既に息絶えた魔物を調べた。被害者たちの傷の状況と、この2体の化け物の牙や爪を見る限り、あの2人がこの2体に殺されたことに間違いは無さそうであった。ふいに街道より馬に乗った数人の男たちがこちらに向かっている。戦闘を走っていた50歳過ぎた男が従者たちと共に馬から降り、こちらに近づいてきた。

  「テリー伯爵」

 ソルデイがうやうやしく一礼し、トモチもそれに続く。ただ1人アツは、気まずそうな表情をしていた。

  「ご苦労」

そう一言いい、テリーは既に事切れてる2体の巨体に視線を注いだ。

 「これは、見たことない魔物だな」

 「えぇ。異常なまでに殺しにかかってくるので、倒すのに時間がかかりました。それで火魔法で仕留めましたが、領地の森を駄目にしてしまいまして。」

「ああ、それは気にしなくていい。」

  ソルデイはテリーにさらに詳細を説明する。

 「薪集めのために森に入った3人の木こりがこの2体に襲われ、2名亡くなり、1名重症です。」

 「そうか。最近領地内で惨殺体が発見されていたのも、此奴らが原因か?」

 「まだ分かりませんが。一連の被害者たちの記録を確認すれば分かるかもしれません。」

 「ふむ。まぁ、今日は疲れているだろうから、落ち着いたら街に戻りなさい。」

 続いてテリーはアツの方に振り向き声をかけた。

「任務に熱心なのはいいが、たまには邸宅に戻れ。ロムはちゃんと帰ってきてるぞ。」

「今は忙しい時期なので、なかなか帰れません。落ち着いたら戻るようにします。」

慇懃に答えたアツに対し、ため息をつきながら

「必ず約束を守るように。」

と言い,テリーは従者たちを引き連れ馬に乗りその場を立ち去った。

 

   一行が街に戻った頃には、すっかり日が落ち、街中の鐘楼が鳴り響いてた。神殿の方に戻ると、すでにキラとゴンとクラースは怪我人を無事に送り届けた後らしく先に到着していた。祭壇のある部屋へ入ると、 犠牲者2人が棺に入れられ、遺族らがすすり泣いていた。彼らはあまりにも酷い状態なので白い布が被せられていた。養母マーサは女神像に祈りを捧げている。ミトは立ちすくんでおり、今にも泣き出しそうな顔をしていた。

 隊長、隊員達も彼らへ祈りを捧げる。

  遺族達にソルデイが哀悼の言葉を述べ、状況の説明を行う。ソルデイが説明するたびに妻と見られる女性が「どうして!どうしてうちの人が?」悲痛な声で泣き叫ぶ。

重苦しい雰囲気の中神殿内で哀悼の儀式が終わり、死者たちは家族たちの元へと帰っていった。

 

 まだまだやらなければならないことがあったが、すでに夜も更けておりその日は解散となった。マーサの好意でトモチと仲間たちは神殿で夕食をとることになった。

食卓の大きなテーブルにはライ麦パンにシチュー、ワインが並べられていた。決して豪華な食事ではないが、トモチたちのお腹を満たすには十分であった。

「そういえば」キラが口を開いた。

「テリー伯爵をさっき見かけて、挨拶に行ったら最近のアツくんのことを聞かれたよ?」

アツの手が止まる。

「色々心配されてたみたいだからね。率先して頑張って任務をこなしてますよ、と答えておいたわよ。」

アツとロムはテリー伯爵の嫡男と嫡女である。本来後継者となるべき立場であるにもかかわらず、アツは本家に帰らず部隊の本部である建物の仮眠室に寝泊まりしてるか、親友ゴンの自宅に身を寄せている。その理由についてはトモチもキラもアツから何度も聞かされてきた。家柄や伯爵の子息としてではなく、バックボーン関係なく実力で大成したいと口癖のように言うのだ。トモチはアツの方を見ながら

「さっきあの森で会った時お父様がっかりしてたけど。それでも帰らないつもり?」

「俺はさ、俺自身であり続けたいんだよ。」アツは続ける。

士官学校でいい成績取った時、剣術の大会で優勝した時も、周りからいつも言われてきたんだよ。さすが、テリー様のご子息ですね、て。」

そう言いながら彼はグラスに残ったワインを飲み干す。

「親父はもともと討伐部隊の本部にいて、優秀な隊員だった。伝説の勇者の家系に誇る剣士で公国の英雄とまで称えられ,マーロからエリアボスの討伐要請が来るくらいだ。

今の俺がどんなに実績を積んだところで、親父の名前が出てくるだろう。それは俺の本望じゃない。家柄なんかじゃなくて、俺は自分の実力で勇者になるんだ。」

「僕たちは少なくともあっちゃんのことそんな風に思ってない。」

ゴンも口を開く。

「入隊試験も上位で受かってるし、剣の腕も努力してきたんだもん。すべてあっちゃんの実力だってこと、誰もがわかってるよ。」

「まぁ、そういうの私は嫌いじゃないんだけどさ。ゴンちゃんに迷惑かかんないようにしなさいよー?」

「うーん。ちゃんと家賃払ってもらってるし、飲み代奢ってもらってるから迷惑じゃないけどね。」

色々言われつつも、伯爵の子息としてではなく友達として普通に扱い、自分のことを理解してくれる仲間たちのことを、アツは嬉しく思った。

「あとさ、ロムちゃんともう少し話をしてあげて。」

「ああ,そうだな。あいつちっとも食べに来ないもんな。」

「今ミトが側についてるわ。」

そう言いながらトモチは窓の先の庭の方に視線を送った。