Wheel of Fortuneー古代都市と神罰者たちー第1章①
第1章 若き討伐隊員たちと聖職者
トモチたちは今、街を出て離れの森へと続く街道を馬に乗って駆けていた。
ここシュリンガー公国は、はるか昔から魔物たちと戦いを繰り返しており、20年前から国内各領地に討伐部隊を配置するようになった。
全ての志願者が討伐隊員になれるわけではない。大公陛下と部隊の総本山である大神殿にも認められる者であり、厳しい任務にも対応できる戦闘能力と体力、戦闘に必要な知識と判断力を持ち合わせなければならない。任命された討伐隊員は、大神殿に祀られている戦いの神の加護を受け、命を落としたとしても神殿で息を吹き返すことができる。これは公国が長きに渡り魔物たちと攻防を繰り返してきた歴史があること、討伐隊員が希少な戦力であることを、命をかけた任務を背負っていることを強く物語っている。
公国認定の部隊の一つである第7小隊は隊長のソルデイを筆頭に、ベテラン勢の隊員5人、そして同期のアツ、ゴン、キラ、アツの妹のロム、ロムと同期の後輩隊員3人で構成されている。
大剣を振るいどんなに強い魔物にも屈しない、厳しくも面倒見の良いソルデイ
若手のリーダー的存在で少し生意気なところはあるが、片手剣の腕は誰もが認めるアツ
気立が優しく手先が器用で力も強く、片手剣と弓を得意とするゴン
常に冷静的に物事を判断し、薬の調合や怪我人や病人の治療を担当するキラ
真っ直ぐな性格で正義感と使命感に溢れる、いつも一生懸命なロム
そしてトモチは、隊員の中でも一目置かれる魔導士であり、杖を持ち火水風土あらゆる属性の魔法を得意としていた。
この6人はこれから果たすベく任務のために馬を走らせ、やがて薄暗い森の手前で止まった。
ソルディ隊長が隊員たちに声をかける。
「今回の任務は、怪我人の保護と、遺体の身元確認と運搬だ。まだ魔物が潜んでいる可能性があるから、各自注意しろ。」
隊長があまりにも険しい顔をするのでその場にいる全員に緊張が走る。
「キラ、ゴン!怪我人の応急処置頼んだぞ」
「はい。必要なものは全て用意してあります」
「うむ。負傷の程度は分からぬから、場合によっては医務所に運ばねば。」
一行がそれぞれ準備をしていると
「おおーい!こっちだぞ!」
森の中から目撃者らしい中年男性が現れ,彼らに手招きをした。一行は男性の指差す方向を目指し、現場へ向かった。
ほどなくして、木の根本にうずくまって倒れている若い男が発見された。彼らは周りが安全であることを確認し、怪我人に近づく。右肩からひどく流血しているが、意識はあるようだ。キラが慣れた手付きで傷口を確認して止血処置を行っていく。
「ゴンちゃん、血を止めるの手伝ってもらっていい?」
「うん、任せて。」
ゴンは荷物のなかから包帯を取り出し、彼女と一緒に傷口を圧迫していく。怪我人がうめき声をあげながらなさがままにされているところを見ると、命に別状は無さそうであった。
キラとゴンが応急処置をしている間、隊員たちはもう一人の被害者を確認した。同じく若い男性であるが、こちらは腹部をやられていた。出血がかなりひどく、既にこと切れていた。隊員たちは死者へ神の祈りを捧げ、さらに周囲を確認した。
よく見ると、森の奥につながる獣道に、血が点々と続いている。この奥にさらに何があるのか?隊員たちは周囲を警戒しながら、進んでいく。
そして、目の前の光景に誰もが戦慄が走った。