Wheel of Fortune〜古代都市と神罰者たち〜第2章①
第2章 新たな邂逅 ①
キーン!キーン!
街の郊外にある空き地にて、若者たちが手合わせをしていた。剣や短剣が交差するたびに辺りに金属音が響き渡る。
討伐部隊に所属し強い魔物と対峙する機会の多い隊員たちは常に鍛錬を積んでいく必要がある。任務の合間をぬい、野外を走ったり、腕立て伏せや腹筋など筋肉トレーニング、実戦を模した訓練を日々怠らない。
「違う、力だけで押しても相手に勝てない。相手が力を抜くタイミングを見極めないと。」
アツが後輩隊員からの剣を受け止めながら指導している。隊員たちはそれぞれ士官学校において剣術を学んできている。しかしそれは相手が人間であることを前提としており、実際には魔物を相手にする実戦においては通用しなくなる。捨て身で向かってくる魔物もいる一方、人間と同じく武器を持つ魔物もいる。魔物だけではなくフクログマやアルストラなどの危険な動物や、時として武器を持った盗賊や無法者などを相手にしなければならない。
別の後輩が入れ替わりでアツと対面し、さらに訓練は続いていく。
少し離れたところでは、ゴンは片手剣、トモチとキラが両手に短剣を持ち、後輩2人を挟む形で構えている。討伐隊員には少数ながら女性の隊員もいる。力では男に敵わない彼女たちは、短剣や片手剣での俊敏さを生かした戦い方を心得ており、トモチのように魔法を使うこともある。
「常に味方の死角を守らないと、目の前の敵にばっかり気を取られちゃダメよ。」
「それだと隙ができて、ロムちゃんが攻撃されるよ。」
後輩2人を、その1人はロムだが、先輩3人が取り囲んだ形で訓練をつんでいる。
1人は剣術の基礎はできており、一対一での実戦はまずまずと言ったところだが、複数の敵に囲まれた場合に於いてはまだ不慣れといったところだ。ロムと背中合わせに立ち、トモチからの追撃に気を取られてばっかりで、隙あらばゴンがロムに攻撃をする機会を与えてしまいそうである。
一方ロムは、常に周りの状況を把握する能力に長けており、キラと応戦しつつもゴンの動きも視覚に捉えておくことを忘れていない。
ロムは確実に強くなっているー成長していく後輩を心強く思う瞬間である。
「おお〜みんなやってるね」
声の主を見ると片手剣を構えた長身の先輩隊員スグが立っていた。スグは剣術に関して部隊の中でトップクラスである。
「随分みんな立派になったね。もう改めて僕から教えることはないなぁ。」
「片手剣に関してはスグ先輩にたくさん仕込まれましたからね〜。俺が1番ダントツで先輩に手合わせしてもらいましたから。」
アツは汗を拭いながら目を細め,スグの前に駆け寄る。
「僕はアツに越されたかもしれないなー?どう?久しぶりにやってみるかい?」
「おお〜!それは面白そうですね。先輩、俺が勝ったら今日の昼飯奢ってくださいよ?」
「おっと、それは受けて立とうじゃないか。」
アツとスグは練習用の剣を持ち、間合いを詰めていく。先輩後輩の決闘が始まろうとした時
「何時ぞやの時みたいに死人を出して、神殿からお説教と大量の始末書を書くようなことにはならないでくださいね?」
キラがニコニコしながら2人を見ている。
「それさえ守っていただければお好きにどーぞ。」
「キラちゃん!もしもの時は手当てして♫」
そう言うなり、2人は剣を持ちお互いに詰め寄り始めた。
後輩たちは剣術のプロ2人の手合わせに興奮しながら見入っており、トモチとキラは呆れたように顔を見合わせる。
「私マーサからの説教だけはごめんだわ。」
「私は始末書の方が嫌よ。」
以前この部隊では、スグとアツと数人の隊員たちはおふざけ半分で決闘を行った結果、ヒートアップしすぎて死傷者を出す事態になった。神官であるマーサの計らいで死傷者は神殿で息を吹き返したが、マーサの怒りは凄まじかった。
「民衆を守る立場のあんたたちが、命を粗末にするとは何事か!」
ソルデイも呼び出され隊員全員が小1時間の説教を喰らうことになり
「止めなかったあんたたちも悪い!」
トモチとキラも怒られることとなった。
これは国都の本部にも知られることとなり、第7部隊は大量の始末書を提出する羽目になったのだ。
アツとスグの手合わせはどんどん熱を帯び、両者なかなか譲らない。その状況さえも2人は楽しんでいるようであった。
キーーン!
ひときわ甲高い金属音が空に響き渡り、スグの持っていた剣が弧を描いて宙を舞い、地面に突き刺さる。一瞬の隙をついてアツの刃がスグの持つ剣を弾き飛ばしたのだ。
おおーー!周りがどよめき、アツはガッツポーズをする。
「まじか、やばいな。後輩に越されるなんて。」
スグは苦笑する。
「先輩約束ですよ?」
「はいはい、男に2言はないからね。」
「よっしゃ!おーい!みんなー!今日は全部スグ先輩の奢りだよ!」
「!!?」
「わーい!スグ先輩ありがとうございます!」
「じゃ,私今日高いワインでも頼もっかな♫」
「ちょっと!?君たち!?」